「ねぇ、君はもう絵を描かないの?」






窓から光と、風が流れる。






「…もう、描けないんだ」





「私は君の絵、好きだよ?」






大きな絵を目の前にして、彼女はそう呟いた。






「…え?」







「この絵は、君に憧れて描いたの。





君が描いていた桜を少し違う角度で描いてみた。





どう?上手かな…?」







そう言って彼女は、美しい桜が舞う絵の前で、振り返った。




栗色のショートカットを膨らませながら。






「いいと、思うよ?」






僕の中で何かが変わった音がした。




それも、多分。




手を伸ばしてみたいって言う、欲望が生まれた音。




僕は自分の手を見つめた。




もう一度、絵を描いてみたい。




描けるかどうかなんてわからないけど、またあのキャンパスを桜色に塗りたい。




また、何もかもが輝いて見えていたあの時に戻りたい。




彼女が僕を変えてくれたから。




「あ、私そろそろ部活行かないと」




僕の横を通り過ぎた彼女に、僕は言った。