「そのカバン、何が入ってんの」

 「本だよ、たくさん入ってる。これから図書館に返しに行くんだ」



 ふうん、と聞き流してから、「ん?」と眉間に皺を寄せる。



 「アンタ、図書館に行くの?」

 「そうだよ。でも道に迷っちゃって、困ってたんだ。だからミクに会えてよかった」



 はァ? と眉を吊り上げて不満の声をあげる。



 「アンタ、丁度良い足が捕まったから嬉しいって言ったの?」

 「そんなことないよ、ミクにも会えて嬉しいもん」



 ミクに「も」、ミクに「も」って言いやがったこいつ。


 唇の端が引きつりそうになるのを堪えるため、自転車のグリップを握りしめる。



 「ああまどろっこしい! もういい、さっさと図書カード渡して!」



 ハルカからひったくった図書カードで図書館の位置と名前を確認する。




 位置を確認するまでもなかった。

 そこは私のよく知っている、昔は毎日のように通っていた図書館だった。