────十二年後。
私は、いいお嫁さんにもいいお母さんにもなることなく、今日もせっせと自宅のアパートと会社を往復するというような生活ぶりだった。
いつも通り、セクハラ発言の多い上司にいいようにこき使われ、先輩からは理不尽な嫌味を頂戴し、帰りの電車で車窓のガラスに反射して見えた私は、私が中学生の頃に見ていた父さんのくたびれたコートよりも、もっともっとくたびれて見えた。
丁度乗り継ぎの駅で電車から降りたその時、トレンチコートのポケットに入れていたスマートフォンがぶるぶると震えだした。
つけていた手袋を外し、すっかり冷たくなった端末を手に持つ。
端に寄って足を止めてから、通話ボタンを叩いた。