ここから逃げる機会はいくらでもあった。
だけどあたしの足はなかなか動かない。
帰る場所がないから。
あたしには、帰る場所がない。
それならここで、誰かのためになるのなら......
「え、」
あたしは目を見開いた。
まさか。なんでこんなところにいるの?
ずっと、
ずっと......会いたかった。
「てめぇ!どこへ行く!?」
「ヤツが逃げたぞ!」
後ろからそんな声が聞こえて。
気付いたら、長屋の外に飛び出していた。
「......父様!」
長屋から遠くに見えた父様の姿。
一日も忘れたことがなかった。



