布団の中からその端正な顔を見上げた。
たぶんこの人、あたしがただ治してるだけじゃないって気付いてる。
「あの、」
「あのとき」
あたしの言葉を遮るように口を開いた彼は、静かにこちらを見下ろしていた。
「あの夜も君はこんなことをしてたの?」
こんなこと、というのはおそらく傷を移したこと。
なにも答えないあたしに、もう一度聞かれる。
「足が折れてるって言ったよね。それって自分で折ったわけじゃないんだよね?」
「……それがあたしの仕事ですから」
「君は不死身なの?」
「そんなわけないじゃないですか」
彼の言葉にあたしはすこしだけ笑った。
「あたしもちゃんと死にますよ」
ちゃんとって言うのはおかしいかもしれないけど。
あたしが今まで死ななかったのは不死身だからじゃない。
奇跡的に生きているだけなのだ。
それも、欠けた身体を治すことや死に至るような病気を治すことはできなかった。
試したことはある。
全身が焼けただれている女の人だった。
結局、何度試してもあたしにその火傷が移ることはなくて、その人は目の前で息を引き取った。
『うそつき』
絞り出すようなその一言が、ずっと頭のなかに残っている。
俯きがちの彼の流れるような黒髪が、風に揺れた。
「そう」と小さな呟きが聞こえたのはその直後だった。
……この人、名前なんだっけ。
たしか……総司さん。
ここの人たちにそう呼ばれていた気がする。



