旧幕府軍が破れたと耳に入ってきたとき、僕たちはすでに大坂にはいなかった。


あれからいろんな場所を転々として、最終的に落ち着いたのは……


ある村の古民家だった。




「沖田くん、ウナギあげるよ。ウナギ!」


「いいんですか?そんな高価な物」


村の人たちはみんな、よそ者の僕たちにも優しくしてくれる。


紅のことも、本当の娘のように可愛がってくれた。



「いいんだよ。紅ちゃんのためにもこれ食って精つけな!んで、また報告してくれよ〜!」


……こうやって、からかわれることもたまにあるけど。


きっと僕らがワケありだって気付いてるはずなのに。



「ああ沖田さん。早く帰ってやりな、紅ちゃんが待ってたよ」


誰一人として、その事情を聞いてくる人はいなかった。


僕らはいつだって幸せ者だなって。


新選組で過ごした日々を思い出しながら、そう思ったんだ。



紅は土方さんの言うとおりあの日以来、力を使っていない。


本人もまるでそんな力なんて忘れてしまったように生活していた。




「紅」


その声にぱっと振り返ったのは、愛おしい彼女。


急いで走ってこようとするから、危ないよって言おうとしたのに。



それよりも先に、紅の姿が視界から消えた。