「......ごほっ、ごほ」


そんなあたしを見て笑っていた沖田さんが、突然団子を食べる手を止めてそのまま口を押さえた。


二回、三回と乾いたような咳をする。

聞いたことのない音だった。


そこまで苦しそうではないけれどなかなか治まることのない咳に、あたしはなんとも言えない不安を感じた。



「大丈夫ですか?お団子つまりましたか?」


これお茶です、と渡すと沖田さんはありがとうと言って受け取った。


すでに咳は治まっていて、その顔には微笑が貼り付けられている。



「よもぎも案外美味しいね。良さが少し分かったよ」


「あれ、でもさっき......」


「ん?」


「いえ、なんでもないです」


なんてことない疑問も、沖田さんの笑顔を前にしてしまえばどこかへとふっ飛んでしまう。

この人の笑顔にはそんな魅力があった。


現に、「そっか」と言って笑った沖田さんはすごく楽しそうで、それでいて美しく。


真ん丸な月をあおるように見上げていた。



「綺麗だね」


「......はい、とても」


その日、沖田さんが湯呑みに手をつけることはなかった。