「人様って……私お兄ちゃんのものじゃないもん」


「家族だったら同じようなものだ。
……まさか、今日は帰らないなんて言い出すんじゃないだろうな」


「か、帰るよ!ちゃんと帰る!」




疑いの眼差しが向けられるが、私は必死で首を振った。


もうっ、こういうお兄ちゃんってほんとに厄介。



と、そこで。



――ピンポーン。



家中に鳴り響いたインターフォン。

藍くんの到着を知らせる音だ。



……ど、どうしようっ。

藍くん来ちゃったよ!




「これか……」


「待ってお兄ちゃん!私が出るからっ」




私の制止も聞かず、お兄ちゃんは真っ直ぐ玄関へ向かって行く。


そしてそのままの勢いで玄関の扉を開いたのだ。



ああ……ごめんね藍くん。




「……あ」


「貴様か、珠姫と付き合っているのは」




門の向こうに立っていた藍くんは、突然の出来事に驚く様子を見せる。

そして私とお兄ちゃんを交互に見渡して、なんとか状況を理解したようだ。




「あの……申し遅れました、羽水藍と申します。妹さんの珠姫ちゃんとお付き合いをさせて頂いてます」


「……」




ぺこっと礼儀正しくお辞儀をする藍くんを、お兄ちゃんはじっと睨むように見下ろす。


お兄ちゃんにきちんと挨拶をしてくれた藍くんに、私は密かに胸を打たれていた。

何も言ってないのに、ちゃんと挨拶してくれて嬉しい……。