――「……な、成瀬さん」




自販機に行こうと階段を降りていた所で、後ろから声を掛けられる。


振り返ると、息を切らした佐賀くんが私に近付いてきていた。




「佐賀くん?呼んだ?」


「うん……」


「どうしたの?」


「……成瀬さん、大丈夫?」




息を整えながら、佐賀くんは階段を降りてくる。


……噂のことだよね。

これだけ噂が回ってたら、さすがに佐賀くんの耳にも入るか。




「ありがとう。大丈夫だよ」


「……なんで」


「え?」


「なんで……逃げたの?」




気付けば佐賀くんは私より下の段まで降りていて、私と目線を合わせるように立っていた。


心配そうな表情の佐賀くんがよく見える。

背が高いから、いつも見上げてたけど……佐賀くんってこんなに綺麗な顔してたんだ。




「……藍くんの気持ちに向き合えなかったから、かなぁ」


「でも2人……良い感じだったんじゃ……」


「どうなんだろう……。なんか、一線を越えないようにしてるっていうか……関係が変わらないようにしてたのかも」


「……そっか、そうだったんだ。
……何か、僕に出来ることあればいいんだけど……」




少し俯くと、長い睫毛がよく見えた。


佐賀くんは優しい。


……私の為に、何かしてくれようとしてる。

前に、頼って欲しいって言ってたもんね。