「言いたいことあんなら直接言えっつの!」




ふと、そんな怒号が廊下から聞こえてきた。

ということはつまり、沙羅ちゃんが登校してきたということ。



振り返ると、見るからに不機嫌な様子の沙羅ちゃんが足音を鳴らしながら教室に入って来ていた。




「あ、おはよう沙羅」


「沙羅ちゃん!……おはようっ」


「おはよ……って、なんなんだよこれ」




沙羅ちゃんはドサッと自分の鞄を私の机に置くと、私の頭をぽんぽんと撫でた。


そしてヒソヒソと噂話をしている周りの生徒を、威嚇するように睨む。




「ヒソヒソうっせぇなあ!」


「こらこら沙羅。あんま事を荒立てないでよ」


「あたしはこーやって陰で言われんのがまじで嫌いなんだよ!」


「うん。分かったから。
私も沙羅のそういうとこが好きだし」




どうどう、と沙羅ちゃんを冷静に鎮める桃ちゃん。

沙羅ちゃんはそんな桃ちゃんの発言に、一瞬きょとんとしている。



……うん、私も沙羅ちゃんのそういうとこ好き。


桃ちゃんは前に同じようなことで沙羅ちゃんに助けられたもんね。




「沙羅ちゃん……噂自体は事実なんだし、私は大丈夫だよ」


「そうだけどさぁ……」


「こうなったのも私の責任だもん。……皆にこれ以上迷惑掛けたくないよ」


「……」



もどかしそうに顔を歪める沙羅ちゃんに、私は少しだけ微笑む。



あとは私次第だ。


今はかなり騒がれてるから堂々と藍くんの所には行けないよね……。

どこかで2人きりになれるタイミングがあればいいんだけど。



……携帯で連絡取ろうかとも思ったんだけど、あんなことがあった後だし、やっぱり直接言いたい。