嬉しいとか恥ずかしいとか、そんな気持ちになる余裕もなく、ただひたすら無事にカフェに入ることだけを考えていた。


そのときだった。



「あーーー!」



女の子の叫び声が聞こえたのは。


その声に引き寄せられるように振り返れば、小さな女の子が手に持っていたものなのか、赤い風船がゆらゆらと飛んでいくのが見えた。



「うわーーん」



女の子は地べたにしゃがみ泣き出してしまう。


その横で、諦めようねとでも言っているのか母親がその子をなだめていた。


ああ……かわいそうに。


あたしもあんな経験あったっけ、なんて見ていると。


次の瞬間、右手の温もりが消えた。



───え。




「ちょっと待ってて」



繋がれた手は離れていて、怜央くんはひとりどこかへ走っていく。