まさかあたしが個室にいるとは夢にも思っていなかったのか、藤谷さんは数秒固まっていた。
しかしすぐに表情をゆるめ、口元には笑みさえ浮かべた。
「な~んだ。そこに居たんだ」
そのセリフには、「じゃあ聞いてたよね?」という続きが表情から読み取れた。
だからあたしは言う。
「全部、聞かせてもらったから」
声は震えてしまったけれど。
でも、怜央くんが死ぬことに比べたら全然怖くない。
その気持ち一つで、あたしは藤谷さんと対峙する。
「藤谷さん、自分のしてること分かってるの?そんな汚い手を使って人を貶めるなんて卑怯だよ!ひどすぎる!」
「はぁ~?ひどいのはどっち?すみれの気持ち知って、好きじゃない素振り見せときながらすみれ裏切ってんだもん」
「はっきり言わなかったことは謝る。でもっ……それで、あたしじゃなくて怜央くんや凪咲ちゃんを傷つけていい理由にはならないよ!」
「だったら別れればいいじゃん」