今までも、これ見よがしにひそひそとささやかれることはあったけれど、この声の主はあたしがここにいることを知らない。
ということは、容赦ない悪口を覚悟しないといけない。
体に緊張が走る。
「ほんと、うっとうしいんだよね」
よく聞いてみると、その声は藤谷さんで。
またか……という思いと、やっぱり悲しいという思いが交じり合う。
「怜央くんにはちょっとつらい思いさせちゃってるけど、それも全部すみれのためなんだからね」
「……うん」
小さく同意する声は、すみれちゃんだ。
怜央くんにつらい思い……?
どういうことだろう。
「でも……こんなにその通りになるなんて思わなかった……」
すみれちゃんの声は細く、少し震えているようにも思えた。
「言ったじゃん、絶対そうなるって。サッカー部の顧問、うちのお兄ちゃんに頭上がんないからね~」



