「そんな風に思わないでよ。彼氏なんだから当たり前だろ」
彼氏……。
その言葉が、重たくのしかかる。あたしは何も覚えてないのに。
凪咲ちゃんに聞いたら、あたしが彼とつき合っていたのは本当らしくて。
『大切な人すぎて、忘れちゃったんだよ』
なんて凪咲ちゃんは笑って言ってたけど。
その目にはうっすら涙が浮かんでいて、あたしが彼を忘れてしまったことを悲しんでいるのは手に取るように分かった。
あたしが彼の立場だったら、悲しくて仕方ないだろう。
まだつき合って3ヶ月程度とはいえ、恋人が自分のことだけを忘れてしまったら……。
記憶をなくしたあたしがまた彼を好きになれるかと問われれば、すぐには頷けない。
だって、"そのとき"に彼に恋したあたしはもういないんだから。