あたしは彼を知らないのに、彼はあたしを知っているんだろうか。



「本当はこんなことしたくなかったんだけど」



いきなり攻めの姿勢で会話を始めた彼に、一瞬頭が混乱した。


まずは、名前を名乗って……とか、そんな平和な会話を想像していたから。



「君がなかなか思い出さないから」



思い出さない……?


なんの、こと?



「あのえっと……あなたのことを……?」



映画館でぶつかったときが初めてじゃないの?


そのほかには、記憶には全くないんだけれど……と思いながら彼の顔をじっと見つめる。


彼の返答は、思いもかけないものだった。