「あお、い……」


涙でぼやける視界の中、ゆっくりゆっくり顔を上げると、私を庇うようにして前に立った蒼井が、伊吹のことを睨んでいた。


「莉世」


隣には歩優が来てくれて、大丈夫だよ、と手を握ってくれた。


「どいてくれない?
俺、霧雨さんに用があるんだけど」


「人の話聞けよ。
俺、前に言ったよな。
莉世を怖い思いさせるなら、黙ってないって」


「は?だから、なに?お前が俺に指図する権利なんか、ないはずだけど」


ピリピリと切迫した空気が流れる中、歩優は大丈夫、大丈夫と強く、強く手を握ってくれる。


私がそばにいるよ、大丈夫。


そう言われてる気がして、動転していた気持ちが段々と落ち着いてくる。



「天野くん」


「なに?和栗さん。君もこいつのこと、どうにかしてくれない?俺がなんで莉世のことを呼んでるのか、君なら分かってるよね?」


“ 莉世 ”


その呼び方にビクッとする。


今、私のことを呼び捨てにした……


どうやらイライラしてきているようで、もう苗字で呼ぶこともやめたようだった。


「お前……」


一段と低くなった声の蒼井をスルーして、伊吹は続ける。


「和栗さんもさ、俺のために協力してよ。こいつのこと、説得して……」


「黙りなさいよ」


地を這うような、怒りを含んだその声。


「え……?」


「わ、和栗?」


今まで聞いた事のない低い声で、歩優がぴしゃりと言い放った。