いつもの居酒屋に行くと思っていた私が連れて来られたのは、駅前の複合ビルの最上階にあるジャズバーだった。

音楽と夜景を楽しみながら、お酒を楽しむ…そんな大人な空間に足を踏み入れるのは初めてで、席に座るだけでドキドキした。

「宮本さんは、ここ、よく来るんですか?」

私が聞くと、

「うん。
…って言いたいけど、ほんとは初めて。」

と笑った。

「伊藤と来てみたかったんだ、ここ。」

宮本さんは、小首を傾げて、私の顔を覗き込む。

入社3年目の宮本さんは、身長180㎝あるらしく、とても背が高い。
切れ長の目に通った鼻筋。
中性的な整った顔立ちにダークブラウンのさらさらヘアは、うちの会社で1番人気の王子様キャラ。

一方、私は148㎝と小さい上に童顔なので、アルコール提供の前に年齢確認される事もしばしば。
その上、顔中に点々と広がるそばかすが私のコンプレックス。

だから、いつも一緒に仕事をしていても、宮本さんには憧れるだけ。
それ以上の期待はしないようにしていた。
釣り合わないのは分かっていたから。