「おはよう。」


教室に朝の挨拶が飛び交う。この光景も今日と明後日、あと2日だけになった。全然実感ないけど。


今日はこれから、卒業式のリハーサル。下級生を含めて、今日はこの為だけに集合した。


卒業式か・・・幼稚園の卒園式の記憶は、さすがにほとんどないけど、小学校と中学校、既に2回の卒業式を経験しているんだな。泣いてる子もいたけど、私は涙は出なかったなぁ。


小学校の時は、卒業より聡志が引っ越してしまうことの方が、私にとっては重大事だったし、中学の時は、寂しさより高校生活への希望に胸ふくらませてた。今度は・・・どんな思いを抱くんだろう?


聡志と言えば、昨日の夜、メ-ルが来た。


『今日は応援に来てくれてありがとう。ずっと連絡くれてたのに、返せなくてごめん。今、ちょっとバタバタしてる。落ち着いたら、俺の方から必ず連絡するから、少し時間をくれ。本当にごめんな。じゃ、とりあえず、また明日。』


バタバタしてるって、なんだろう?私と話す時間もないってこと?要するに避けられてるってこと?なんか釈然としない。


今日の朝も一緒に学校行こうって誘うつもりだったし、終わった後、話をしたいと言おうと思っていたのに・・・。


ふと見れば、沖田くんや他の男子とワイワイやってるあいつ。小学校の時は、いつもあんな感じだった、あいつは、もうすっかりもとのあいつに戻った。戻らないのは私との関係だけ・・・。


卒業式のリハ-サルは特に問題なく終了。教室に戻って、山上先生からの連絡事項の伝達が終わると、もう今日は下校。


悠は、今日はこのあと、家族で自分と弟の卒業祝いを兼ねて、食事に出かけるそうで、明日はもちろん先輩とデ-ト。私達が誘わなきゃ予定0のはずの加奈も、なんか用事があるとかで、高校生活最後の週末は、寂しく1人。ウチの親は、卒業祝いしてくんないのかな・・・。


別のクラスメイトが、お茶に誘ってくれたけど、気が乗らなかったので、丁重にお断りして、私はカバンを持って、教室を出た。


このまま、まっすぐ家に帰るのもつまんないけど、と言ってどこかに行く当てもない。なんで、さっきのお誘い、断っちゃったんだろうなんて思いながら、校門を出ようとした時、私は思わず、足を止め、次の瞬間、なぜか物陰に隠れていた。


私の視線の先には、仲睦まじく、肩を並べて、歩いて行く聡志と長谷川さんの姿が・・・。


やっぱり、やっぱり、そう言う事なんだね・・・な~んだ・・・。


加奈、あなたに言われた通りになっちゃった・・・あとで後悔しても知らないからねって、言われてたのにね、私・・・。


あれ、私なんで隠れてるんだろう?バカみたい、私も帰ろう・・・そう思った私は、思わず聡志達と反対方向に駆け出していた。


「おい、岩武!」


そんな私に誰かが、呼びかけて来たような気がしたけど、私は振り向きもせずそのまま走り去った。だって、泣いてるとこなんか、誰にも見られたくないもん・・・。