懐から札を取りだし、高く放り投げで印を結ぶ。

「雷撃招来!」

札に封じ込められた術を放つと、バリバリと雷の音と共に、雷撃が黒い雲へと放たれる。

すると、千切れてバラバラになり、中心から幼い子供の影が現れた。

どうやら人形の最初の持ち主で、術でも仕留めきれなかったモノらしいね。

そいつは物凄く醜い形相でこっちを睨んでいる。

「悔しかったらここまで来なよ。弱虫」

挑発に乗りやすかったのか、こちらに向かってきた子供に、僕は素早く小太刀を抜いて突き刺した。

すると、声にならない悲鳴をあげ、子供はかき消える。

後に残ったのは、バラバラになった人形だけだった。


「……う……ん」

「光希!」

「……誠太郎?……私、何してたんだっけ?」

誠太郎に抱き抱えられながら、女はぼんやりと辺りを見回していた。

「覚えてないのか?」

「何となくは……あれ?その人形壊れちゃったの?」

「……ああ。何か悪いもんが憑いてたみたいだ」

誠太郎はどこか申し訳なさそうに眉を下げている。

「そうなの?まぁ、人形なんてあんまり興味なかったし、無くても困らないけど……ところで、あんた達誰?」

「私は雪花。こっちは桃矢くんだよ。よろしくね!」

「……あ、うん。よろ……しく」

こっちはよろしくする気ないんだけど。

「桃矢……桃矢……あ!思い出した。何か有名な陰陽師じゃない。へー、こんなのがね」

うわ、さっそく喧嘩売ってきたよこの女。

「何?何か文句あんの?」

「別に。なよなよしてそうなのに、やるじゃないと思っただけよ」

ムカつく。

「初対面で喧嘩売る癖があるが、根は良い奴だから嫌わないでやってくれ」

「それより、あんた雪花って言うのね。私女の子の友達欲しかったんだよね!仲良くしましょ!」

「ありがとう。こちらこそよろしくね」

ねぇ、僕ほっといて何和やかに話進めてんの?

「まぁまぁ焼くなよ」

「は?誰も焼いてないけど」

「めっちゃ眉間に皺寄せてるじゃんか。友達が出来るのは良いことだぞ。あ、勿論俺とお前も今日から友達な」

お断りなんだけど!

「友達なんていなくても、死にやしないよ。あんた達とはもう会うこともないね」

「友達は人生の宝だぞ。それに、これはただの勘だが、俺とお前、絶対良い友達になれると思うんだよな。あいつらも」

楽しげに笑う雪花と光希を指差しながら、誠太郎は笑う。

単なる勘なんて宛にならないだろう。

「あ、因みに俺は甘味屋の息子で、菓子とか作ってるから、甘いのが好きだったら買いに来てくれよ」

「……気が向いたらね」

別に甘いのは好きじゃない。というか、あまり食べたいと思わない。

まぁ、雪花が甘味好きだから、買ってやってもいいかな。

そんな僕のことを見ながら、雪花が微笑んでいたことなんて、僕が知る筈無かった。