「……」
 

胸を衝く衝動に耐えられなくなって、窓から身を乗り出した。
 

ここは二階。下は植え込みになっているけれど――


「あ、やっぱ見た」
 

声は真正面からした。驚いて顔をあげると、私の部屋の前に立つ樹の枝に、黎明の吸血鬼はいた。


「このままシカトされたらさすがにどうしようかと思った」
 

軽く笑う黎明の吸血鬼を見て、また胸が熱くなる。


どうしよう。……どうしよう。その姿を見るだけで、なんでか知らないけど、泣きそうになってしまう。


それが恐怖からではないことだけ、わかる。


「ど、どうやって……」


「うん? 投げ飛ばされたのに乗じて飛び移っただけだけど? 距離が近くてよかったよ」


「私、死なせてって、言わなかった……?」
 

心の、小さな鍵付きの部屋に閉じ込めていた言葉。
 

誰にも言わないと、言うことはないだろうと思っていた、言葉。
 

夢か現かの世界で、私はそれを音として自分の耳に聞いていた。