恥ずかしげもなくこんなことを言う奴が現存するのか。


いや、過去にいた保証もないけれど。


あぶないあぶない。いくら助けられた身と言えど、気をつけなくちゃ。
 

でも。


「……ありがと」
 

すきだと言われて悪い気はしない。私も、桜も月もすきだ。
 

桜は日本なのだと。


「桜木……?」


「私の苗字だけど?」
 

アパートの一室。そう名の書かれた部屋の前で黎は足を停めた。ドンピシャで私の部屋だった。
 

でも、本当にどんなにおいがしているんだろう。


抽象的な言い方だったからはっきりとはわからなかった。


「親いないって言ってたけど、ここで降ろすか?」


「警察を呼ぶべき事態になる?」


「ならねーよ」
 


言い、黎はドアを開けた。


「真紅、歩けるか?」


「歩く」
 

黎の腕から降りて、靴を脱ごうとしたときに、


「……ぁれ」