「んー。腹空かしてたらいい匂いがしてな。来てみたらお前がいた。名前は?」


「……お腹空かして……で、私の血……? え、鬼って、何、吸血鬼、とかなの?」
 

信じる気はないけど、あの一瞬は死ぬのだとわかった私の命が生きている。


……これのおかげなのだろう。首にある、深い牙の痕。


「半分はな。俺は混血。でも、お前に当たって正解。ほんと、かぐわしいくらいの香りがする」
 

言って、自称吸血鬼は私の長い黒髪の先を掬い取った。


その動作がまた美麗で、思わず動けなかった……。


吸血鬼の、夜闇を切り取ったような髪に、月の光を浴びて銀色に輝く瞳――本当に、ただの人間ではなさそうだ。


「え、私におうの?」
 

そこ、ショックだった。これでも一応女子高生。


「いや? におうっつーか、俺みたいな奴しかわかんないと思うけど……すごく、食べたくなるいいにおい」