「どうしたの弘江、教科書忘れたの?」


あたしは弘江へ向けてそう聞いた。


あたしと弘江の机は少し距離があるから、大きな声でも不審がられない。


「そうなの。どうしよう……」


あたし達の会話に気が付いた信吾が弘江の方を気にしているのがわかる。


もう少しで授業開始のチャイムが鳴ってしまう。


その時だった。


「俺の教科書使う?」


信吾が慌てて弘江にそう声をかけたのだ。


手には教科書を握りしめて。


「え、いいの?」


「いいよ。俺、隣の和弘に見せてもらうし」


そう言う信吾の頬はほんのりと赤い。