「やめなければ、稔の本当の悔しさはわからない気がして。それに、一番好きなものを断てばアイツの命が助かるんじゃないかって……」


そんなことを考えていたんだ。

ちょっとしたことで泣いてしまう私を俊介は励まし続けてくれるけれど、彼も私と同様、戸惑い苦しんでいるのだと知った。


「稔はそんなことを望まないよ」
「里穂……」

「俊介のことを拒否したあの日。俊介が出ていってから、すごくつらそうな顔してた。多分あのとき、俊介を傷つけたことを悔やんでいたんだと思うの」


俊介は私の手をギュッと握る。


「もし、俊介が陸上をやめて命の期限が伸びても、稔、うれしくないんじゃないかな……」


きっと稔は自分のために俊介が陸上を辞めたら罪悪感で苦しむ。

だって彼は常に他人を気遣える優しい性格の持ち主だから。


でも、稔が逝ってしまうなんて考えたくない。


「はー。どうしたらいいんだ」


考えても答えは出なくて、俊介の問いかけに答えられない。


だけど、稔を想う俊介の深い気持ちに、私も同調していた。


俊介が一番大切なものを手放してもいいと思ったように、私も稔のためならなんでもする。

私はそう心に決めた。