俊介のように気の利いた言葉が出てこない。
それでも稔はうなずいた。


それから十分。
私と入れ替わりに洗濯に行っていたおばさんが帰って来たので、立ち上がる。


「また来るね」
「里穂」
「ん?」


呼び止められて、首を傾げる。


「なんでもない。気をつけて」
「ありがと」


彼がなにを言いたかったのかわからない。

ただ、一瞬見せた不安げな表情が頭から離れなくなった。


一階に戻ると、俊介がすぐに気づいて近寄ってくる。


「どうだった?」
「うん。食べられなかった」


私の返事に、俊介は肩を落とす。
メロンパンの差し入れは、彼の提案だった。


「稔が『死ぬのかな』って……」


私が涙をこぼしながら伝えると、彼は私を引き寄せ、胸を貸してくれる。


「アイツの力になりたいのに、なにもできない。クソッ」


俊介は悔しそうに吐き捨てる。
私も同じ気持ちだった。