この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。

「うん。カレーパン食べてるんじゃない?」
「あはは、そうだね」


やっと笑ってくれた。
私たち三人の間には、笑みがこぼれるような思い出がいっぱいなのに。

これからも思い出を積み重ねていきたいのに。


「俺、もう一度走りたいなんて贅沢なんだろうな……」


稔が漏らしたひと言に、心臓をわしづかみにされたような痛みが走る。

走ることが贅沢なんて。
こんなことを口にしなければならない稔は、どんなに苦しいんだろう。


「そんなことないよ。私は、稔がハードルを跳んでいる未来しか想像できない」


それは本音。
彼がいなくなるなんて、まったく信じられないもの。


「そっか」


それから彼は黙り込んだ。
そして私も、なにも言えなかった。


「俺、死ぬのかな……」
「えっ……」


しばらくして彼が放ったひと言に、一瞬息が止まった。
だけど、すぐに笑顔を作る。

私が不安な顔してどうするの? 
励まさなくちゃ。


「なに言ってるの? そんなわけないじゃない。またハードル跳ぶんだから」