この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。

ベッドに横たわる稔が、私たちのほうに顔を向けて微かに微笑む。

でも、少しも顔色が改善されていなくて息が止まりそうになった。

つらいのは稔なんだから、私が動揺して不安がらせちゃいけない。

自分にそう言い聞かせて、もう一度笑顔を作り直す。


「悪いね。丁度腹が減ってたんだ」


よかった。食欲はあるんだ……。

私がベッドの横に座ると、稔はゆっくり起き上がろうとした。


「え……」


けれど、よく見ると様子がおかしい。
彼の右目の黒目が鼻のほうに極端に寄っている。

不安がらせちゃいけないと思ったばかりなのに驚愕のあまり固まっていると、私の手からスッとプリンを奪った俊介が、冷静にふたを開けている。


「これ、三百五十円もするんだぞ。元気になったらなんかおごれよ」
「あはは。わかったよ」


稔は笑っているけど、目が戻ることはない。

だけど、俊介がそれに気づきつつも普通に振舞っていることがわかったので、私もそうすることにした。