「だって……。せっかく私の結婚を祝って、あんなに嬉しそうにしてくれたのに。もしも私があなたと別れたという事実だけを聞けば、きっと心配させるし悲しませるだろうから」

「そんな理由か」

 ようやくライラの言わんとしていることが伝わり、スヴェン心底呆れたという感情を声に乗せた。

「エリオットは大切な家族だったから」

 小さく付け足してから、ある考えが頭にひらめきライラはぱっと顔を上げた。

「あ、なら。私たちが別れた後でもいいの。彼に本当のことを伝えてほしい。スヴェンもその方がいいでしょ?」

「なぜ俺の話になる?」

 理解不能という表情を見せるスヴェンにライラは意気揚々と答える。

「私と別れた後で、いつかあなたが本当に結婚したいって思う相手が現れたとき、過去に結婚していた事実は事情があるものなんだってわかっていた方が」

「必要ないな」

 スヴェンは軽く鼻を鳴らしてライラの言葉を最後まで聞くことなく切り捨てる。

「結婚なんて自分からする気もない。それこそ陛下の命令でもなければ」

「なん、で?」

 無意識にライラは声にしていた。あまりもスヴェンが拒絶する言い方をしたからだ。ふたりの視線が交わり、スヴェンは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「いらないんだよ、俺には。そういう大事にしないとならないものとか、大切な存在は。足枷になるだけだ」

 吐き捨てたスヴェンの言葉にライラはなにも言えなくなる。同時に心臓を冷たい手で掴まれたような痛みと底冷えが体を襲う。

 スヴェンとの実際の距離はたった数歩しかないのに、ライラは彼をとてつもなく遠くに感じた。