手紙には初めて知る事実ばかりが記されていた。自分が王家の伝説に登場するフューリエンに関係するなど、にわかには信じられない。この瞳に色が本当に消えるのかどうかも怪しい。

 でも疑ったところで他に信じるものもない。この孤児院で慎ましく生きていく。十二歳の少女はすでに自分の未来を決めていた。

 いつか誰かに必要とされるかもしれないと思ったりもした。迎えに来てくれる人がいるかもしれないと。

 けれど初対面の人間がこの容姿を見れば、どんな反応をするのかライラは嫌というほど思い知った。だから、もう期待はしない。

 あれこれ思い巡らせ、ライラは息を吐く。とりあえず今日はもう休もうとベッドに近づいた。寝間着は用意されていないので、着ていた服を脱ぎ肌着になるか迷ったところで、そのまま体をベッドに倒す。

 ここにいるためとはいえ、私、本当に結婚するの?

 なにも知らない男との結婚。さらには自ら結婚相手にと名乗り出た男は、どう見ても形だけ、渋々といった感じだった。きっと必要以上に関わることさえ望んでいない。

 結婚ってこんなに簡単にできて、こんなにも呆気ないものなんだ。

 柔らかいベッドは文句なしの寝心地だった。けれどライラの心は重く沈んでいく。

 平気。生きているだけで恵まれているんだもの。今までだって乗り越えてきたんだから、この先だってきっと大丈夫。私には両親と伯母さんと、そして――

 なにげなくライラは自分の左目を覆った。

「どうか満つる月のご加護があることを」

 捧げた祈りは部屋の空気にすぐ溶ける。ライラはゆっくりと瞼を閉じた。