その言葉だけで、伊織はいつもと同じ声に戻った。


私の大好きな、いつもの優しい声に。


「そっか。


大丈夫だよ。七瀬は悪くない。


一度にいろんな人の希望を叶えるのは七瀬は得意だったかもしれないけど、


たくさん告白されて、全部に答えようとする方が最低だよ?


七瀬は自分が一番したいことをして、好きになってくれた人たちに恥じないような生き方をしなきゃいけない。


言ってる意味、わかる?」



そう言いながら、伊織は私のことを起こして抱きしめた。


「そうだよ七瀬。七瀬を想ってる人はみんな、七瀬に幸せになってほしいんだよ。


あわよくばそれが自分であってほしいって思ってるだけで、実際、みんなの願いを叶えられるような人はいない。


七瀬は七瀬らしくいてくれたら、みんな喜ぶから」



裕樹も、そんなことを言う。


なんで、みんなそんなに優しいの。


私、酷いことばっかりして…。



「七瀬はいい子。


大丈夫だから。


みんな、七瀬のこと好きになって後悔なんかしてないよ、きっと。


七瀬は、俺のこと好きになって後悔してる?」



そう言いながら私の顔を見つめる伊織。


いつになく優しい顔をしていて。



「そんなこと、あるはずないっ」