手を伸ばしたいけど、伸ばせない。


私はみんなに最低なことをして来てしまった。


そう思うと、伊織の手を取ることはできなかった。


人前ということもあって、私は裕樹に運ばれた。


もちろん伊織も付いてくる。


保健室のベッドに寝かされた。



「ご、めんなさい」


「南さんは謝らなくていいよ?どうしたの?」


「裕樹は、全部知ってるから…わかってるから…っ」


「南さん?」


伊織はわからない、と言った風に私の名前を呼ぶ。


「裕樹が泣かせたの?」


「…まぁ、そういうことになる」


「詳しく説明して」


伊織はいつもより怖い声だ。


「い、おり…裕樹は悪くないの…」


いつまでも、涙が止まらない。


「七瀬?その呼び方でいいの?」


「…裕樹は全部、知ってるから…っ」



本当に、最低だ。


黒瀬くんもフって、裕樹にも辛い思いをさせて、伊織にこんな顔をさせている。


余裕のない、寂しそうな瞳が私を捉える。


「七瀬、泣くな。


お前が泣いて俺をかばうほど俺と伊織の関係が悪くなるから。それにお前と伊織の関係も」


裕樹は不安そうな顔をしている。


「裕樹になんかされたのか?


七瀬。言わないとわかんない」


「…私、最低なの…。みんながこんなにも思ってくれてるのに、私はいろんな人の期待に答えられないまま、ここにいるの…っ」