「七瀬さん、今日もお願いしていいですか?」


「もちろん」



そう言って微笑む七瀬は俺の方は向いていない。



「いつもいつもありがとう。感謝します」


「いいよいいよ、むしろ力になれて嬉しい」



黒瀬奈緒。


うちのクラスの学級委員。


しれっと七瀬のことを狙っているのはあからさまにわかる。


俺の斜め前の席で七瀬は黒瀬に笑顔を向けている。


やだやだ。


ほんとに。


こう言う時に幼なじみだから喋れるって言ってないのは本当に苦しい。


七瀬のお願いだから仕方ないけど…。



「昨日の宿題の2番なんですけど…」


「えっとね、これは、ほらここ見て?


ここを置き換えたら昨日の公式使えると思わない?」


「あ、ほんとだ。簡単ですね」



和気あいあいとした空気に反比例して、俺はどんよりして行く。


教室に来てからまだ一度も七瀬と喋っていない。


というかいつもほとんど喋らない。


喋ると言ったら仲良い男、ただ1人。



「今日も死にかけてるなぁ。


うちの学校、女子の方が多いしな」


「あぁ、そうだね」



加賀裕樹。


俺が死んでるのは女子が多いからだと思っているこの男、実は七瀬の元カレ。


耳にピアスついてるし、頭は金髪。


笑った時の顔は悪ガキのそれ。



なんでこんな奴と一緒にいるかというと、話は単純。


普通にいい人だったからだ。