「ねえ、朋樹」

 凛が僕を見ていた。

「何?」

「いろいろありがとね。うちらのこと」

「何かしたっけ?」

 くすっと微笑む。

 凛でもこんなかわいい笑い方ができるんだな。

 言ったら怒られるな。

「仲直りさせてくれたじゃん」

「そうだっけ」

「なにしらばっくれてんの。そんないい人キャラ、似合わないよ」

 そういうわけじゃない。

 本当にあまり覚えていないんだ。

 風邪を引く前の記憶がぼんやりしてしまっている。

 まだ体調が元通りじゃないのかな。

「あたしね、せっかく朋樹がうちらのために頑張ってくれたんだから、ちゃんと仲直りして高志のこと大事にしなきゃって思ってさ」

 そっか。

「クリスマスにマフラーをプレゼントしたらさ、あいつ、ちゃんと言ってくれたよ」

「何を?」

「えー、聞かなくても分かるでしょ」

 ああ、告白か。

 僕が微笑むと凛も微笑みを返した。

 とても素敵な笑顔だった。

 高志が戻ってきた。

「おい、まずタコヤキとヤキソバ買ってきたぞ。ちょっと持っててくれよ」

「綿あめは?」

「だからよ、持てねえから持っててくれよ。また行ってくるぜ」

「先に食べてるよ」

 高志は振り向いて親指を立てるとまた人込みの中へ戻っていった。

 湯気のたつタコヤキをつつきながら凛がつぶやいた。

「今年のあたしの目標はね、もうちょっと素直になること」

 え?

 凛が?

 僕は思わずむせってしまった。

「何よ、無理だって言うの?」

「タコヤキが熱かっただけだよ」

「まだ口に入れる前じゃん」

 ばれたか。

 なんか懐かしいやりとりだなと思った。

「凛」

 僕が呼ぶと凛も僕を真っ直ぐ見つめた。

「なに」

「好きだよ」

 凛が微笑む。

「残念。あたしはもう高志のものでーす」

「おい」

 ちょうど綿あめを持って高志がやってきた。

「その言い方やめろよ。誤解されるだろ。なあ、朋樹、俺たちそういうのまだだからさ」

「バーカ、おまえさ、そんなの黙ってろよ。したとかしてないとか二度と人前で言うんじゃないよ。別れるからね」

 正月早々凛が機嫌を損ねる。

 でも、何かホッとする。

 そう、僕らはこんな風にしていつもずっと一緒だったんだ。