その日から数日、僕は一人だった。

 朝は凛と一緒に登校するけど、それからは高志と二人の時間を邪魔してはいけないからずっと遠慮していた。

 学校が終わると一人でため池の脇道を歩き、線路沿いに朝来た道を戻るだけだ。

 退屈な毎日だった。

 何かぽっかりと心に穴が開いているような感じで、とてももやもやする。

 何か大切なことを忘れてしまっているような感じだ。

 かといって、寂しさとか孤独とかを感じることはなかった。

 凛と毎朝一緒に歩くのは変わらないし、二人の楽しそうな姿やくだらない会話のやりとりを見ていると僕も気持ちがあたたかくなった。

 この数週間の記憶が曖昧だけど、おそらく期末試験を乗り切るために必死だったんだろう。

 きっとそうだ。

 終業式の日。

 明日から冬休みだ。

 下校の時、凛が僕を呼びに来た。

「今日、高志が家の用事で一人で帰るっていうから、あんた、一緒に帰ろうよ」

「ああ、久しぶりだね」

「うれしい?」

「うん」

 なぜか僕は素直にうなずいていた。

 凛が不思議そうに僕を見ていた。

 線路沿いの道を歩く。

 ついこの間までこんな感じだったはずなのに、帰りも一緒なのはずいぶん久しぶりのような気がする。

 ぼんやりしている僕の顔をのぞき込むように凛が言った。

「朋樹は好きな人いないの?」

 目の奥に痛みが走った。

 何かを封印するかのように、思考力を奪う痛みだ。

「そんな人がいたような気がするんだけど、分からないんだ」

「それってあたしのこと?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「そこは、あたしだっていうことにしておくところでしょうよ」

「凛には高志がいるじゃないか」

「泥沼の三角関係でついに事件が起こるとか」

「僕たち二人ともヘタレだから、共倒れだよ、きっと」

「ああ、こんな美女を目の前にして二人とも遠慮しちゃうか」

「どこに美女がいるって?」

「ア?」

 凛が鞄を振り回す。

 でも空振りで僕には当たらない。

「良かった、朋樹が少し元気になって。最近、元気なかったじゃん。赤点の高志の方が元気で困るよね、あいつも」

 歩行者用踏切の警報が鳴る。

 僕の頭の中に何かがわき起こってきた。

 この踏切を渡って何かがあったような気がする。

 立ち止まった僕を凛が不思議そうに見ている。

 若松神社、ブランコ。

 そうだ。

 消しゴム。

 僕は鞄からペンケースを取り出して中を見た。

 そうだ消しゴムだよ。

「ほら、書いてあるよ」

 僕は凛に消しゴムを見せた。

「なあに、『真冬』って、そりゃあ、今は冬だけどね。明日からウィンターバケーション」

 ちがうよ、僕には好きな人がいるんだ。

 心の中の穴にあのあたたかな気持ちが戻ってきた。

 空っぽだった穴に楽しかった記憶がよみがえってくる。

 間違いなく僕には好きな人がいたんだ。

 会いたい人がいるんだ。