冬の日差しが傾いてきた。

「そろそろ帰りましょうか」

 僕らはごった返すターミナルビルのお土産屋さんコーナーを通って地下鉄駅に向かった。

 先輩がお土産屋さんに積まれた箱を指さした。

「朋樹、私はこれを知っているな」

 凛が笹山公園で先輩にあげた博多名物のお土産物だ。

「ああ、おいしいおまんじゅうですよね」

 先輩がじっと見ている。

「買っていきましょうか。きっと、凛も喜びますよ」

「それがいい」

 にっこりと笑みを浮かべながら先輩が箱を手に取る。

「はい、お金です。あそこでお金を払うんですよ」

「そうか」

 初めてのお使いみたいに先輩はお札を握りしめてレジに向かった。

 混雑しているお店から通路に出て先輩を待った。

 おまんじゅうの箱を店員さんが積み上げるそばからどんどんお客さんが取っていく。

 ものすごい売れ行きだった。

 ふと、レジを見ると先輩の姿が見えない。

 しまった。

 目を離すなんて。

 僕が見ていないと消えてしまうじゃないか。

 焦った。

 辺りを見回してもグレーのコートにスカイブルーのニットの女の人はどこにもいない。

 誰かが後ろから僕の手をつかんだ。

「朋樹、私をおいていくな」

 先輩だ。

 振り向くと涙目になって僕を見つめている。

「大丈夫ですよ。ここにいます」

「私はおまえを離さないぞ」

 まわりの人が僕の顔を凝視している。

 確かに美女からそんなことを言われる男には見えないだろうけど、そこまであからさまに驚くこともないんじゃないだろうか。

「大丈夫ですよ。僕はずっと先輩を見ていますから」

 先輩は博多のお土産物を大事そうに胸に抱いて僕に微笑んでくれた。

「行こうか、朋樹」

「はい、帰りましょう」