「僕ら下関から毎日電車で通ってたんですよ」

「二人で関門海峡を渡りながらネタの相談とかしてね。ま、迷惑にならないように小声でしたけどね」

「ただ、男二人が顔を寄せ合ってずっとひそひそやってるから、かえって怪しかったかもしれないですけどね」

「おもしろいこと考えるからどうしてもお互いにやにや笑っちゃうわけですよ」

「それは変に思われますね」

「僕らスペースワールドでバイトしてたこともあるんですよ」

「ちょうどJRの駅ができた頃でね。通いやすくていいじゃんかってことで」

「何かイベントとかお笑い関係のお仕事をなさってたんですか」

「いや、清掃係ですね」

「地味ですね」

「地味とか言わない」

「すみません」

 二発目のお約束が決まって、大きく目を見開いた小倉赤丸が「クゥーッ!」と親指を立てると、また場内がわく。

 ここで小倉赤丸が横でやりとりを眺めているだけだった糸原奈津美に話を振った。

「奈津美ちゃんは今度主演映画が公開されるそうですね。今日から告知解禁だそうです」

「え、この流れから急にいいんですか」

「よかーとです」と、またお約束の一言が決まる。

 場内の乾いた笑いに糸原奈津美もスマイルで返す。

「よくないですよ」

「いやね、僕らさっき裏で打ち合わせをしてたんだけど、三十後半のおっさん二人の話からどうしても奈津美ちゃんの青春映画の話につなげるのは無理ってことでね。ま、無理矢理でいっか、と」

「えー、あきらめないでくださいよ」

「でも奈津美ちゃんのピュアな魅力があふれでた映画になっているそうじゃないですか。ぜひ、みなさんもね、劇場に足を運んで福岡県出身のタレントさんを応援してあげてくださいよ。僕らは下関出身ですけどね」

 小倉赤丸の言葉に、糸原奈津美も観客に頭を下げた。

「春休み公開の映画『冬来たりなば春遠からじ』です。ここの劇場でも上映しますので、どうかみなさんよろしくお願いします」

 まばらな拍手が起こる。

 小倉末吉がつっこむ。

「ナツミちゃんなのに春映画なんですね」

「みなさんお間違えのないように」

「いやいやロングランで夏までやってるかもしれませんよ」

「ありがとうございます」

 糸原奈津美が赤丸・末吉に深く頭を下げた。

「小倉赤丸・末吉のお二人、そして、糸原奈津美さんでした。どうもありがとうございました」

 司会者がまとめて短いトークショーが終了した。