僕たちはお互いに画像を交換した。

「同じジェラートの写真が二枚になったな」

 先輩が片方を食べていたので、左右非対称の写真だった。

「でも逆向きですよ」

「アナザー・サイド・ストーリーだな」

 先輩がふと、他のお客さんの様子を見て、僕に尋ねた。

「あれは何をしているのだ?」

 指さす方の二人組がお互いにスプーンを差し出しあっていた。

「相手に食べさせているんですよ」

「なぜだ」

「まあ、愛情表現ですかね」

 先輩がうなずきながらスプーンでピスタチオジェラートをすくいあげて、僕に差し出した。

 いただきます。

 初めて食べる味だ。いや、ピスタチオだろ。

 自分で自分にツッコミを入れてしまったせいか、どうやら僕は笑っていたらしい。

「どうした、おもしろいのか」

「すごくおいしいです」

「だろう」

 僕もスプーンですくって先輩に差し出した。

 先輩の唇が近づいてくる。

 ふと、窓の外に目をやると、買い物客がみな僕たちの様子を見ていた。

 僕と目が合ったせいか、ストップウォッチのボタンが押されたみたいに、みな一斉に動き出す。

 ものすごく恥ずかしくて耳が熱くなったけど、どうでもよかった。

 先輩と一緒なら、この世のあらゆることはどうでもよくなるんだな。

 まわりの視線とか、そんなのはどうでもよかった。

 僕は先輩しか見えなかった。

 この世には先輩と僕しかいないのだ。

「どうした。顔が赤いぞ」

「いや、なんでもないです」

 二人で一緒だと、何気ない瞬間がとてもいとおしくなる。

 何気なければ何気ないほど、そんな些細なことほどかけがえのない輝きを放つ。

 こんな無駄なやりとりが楽しいなんて初めて知った。

 これからもこんな輝いた時間がずっと続くと思っていた。

 そう思いたかった。

 でも、幽霊なんだよな。

 僕はキャナルシティを行き交うお客さん達を眺めながら、今この瞬間を永遠に止めてしまうことができたらいいのにと祈っていた。