試験が終わって昇降口を出たところで高志がつぶやいた。

「俺、ヤバイかも。二年生になれなかったらどうしよう」

 そこまでひどいのかよ。

 凛が鞄を振り回して高志の尻を叩く。

「あんた、あたしの後輩になったら、一生頭上がらなくなるね」

「一生世話してくれるんなら、むしろその方がいいけどな」

「バカとはつきあわないよ」

「だってさ、ここんところ勉強どころじゃなかっただろ」

「何、あたしのせいだって言うの」

「いや、俺のせい。おまえに迷惑かけたのも、俺の頭が悪いのも」

 高志が素直に頭を下げた。

「うーん、何か違うんだよな」と凛が首をひねる。

「高志さあ、あんた、馬鹿な方がいいよ。真面目なのは似合わないよ」

「なんだよ、それ。どうしろっていうのさ。俺、真面目におまえのことが好きなんだぜ」

 まわりの糸高生が二人に注目している。

「あんたね、こんなところで言うんじゃねえよ。そういうところが馬鹿だって言うんだよ」

 凛がまた鞄を振り回す。

 高志が避けて僕の膝に当たる。

 痛いよ。

 大事故だよ。

「ごめん、朋樹」

「大丈夫だよ」

 僕は無理に笑顔を返した。

 なんか、きのうからぶたれたり殴られたり突き飛ばされたりぶつけられたり、災難続きだな。

 お祓いでもしてもらうか。

「それより、これから二人はどうするの?」

「えへへ、デート」と凛が微笑む。

 今度は高志の方が照れて背中を向けている。

 なんだよ、お似合いかよ、おまえら。

「ああ、じゃあ、僕はここで」

 今日は母親の仕事が休みで、家で昼ご飯を食べることになっていた。

「朋樹も先輩に会えると良いね」

「うん、いろいろ探してみるよ」

 僕はため池沿いの道の分かれ目で二人に手を振って別れた。