昇降口で靴を履き替えていたら、凛が表を指さした。

「ねえ、あれ、先輩じゃん」

 たしかに校門のところに一片先輩が立っていた。

「先輩、こんにちは」と凛が声をかけた。

「おまえたちか」

「先輩は何をしているんですか」

「私はここにいる」

 凛が笑う。

「ここにいるって、ずっといるんですか」

「暗くなったら消える」

「暗くなるまでここにいるんですか」

 あんまり会話が進まない。

「先輩、こいつと一緒にみんなでご飯食べに行きませんか」

 凛がまた勝手に僕を利用する。

「食事をしたことがないが」

「じゃあ、なおさらいいじゃないですか。新しいことを知るのって楽しいですよ」

「楽しいことか。なんといったかな」

 先輩は少し首をかしげて何かを思い出そうとしていた。

 凛がまわりの糸高生にも聞こえるような大声で言った。

「大ピンチですよ。レオナルド・大ピンチ」

 凛、頼むから、それを思い出させるのはやめてくれ。

「ああ、そうだ。おもしろいやつだな」

 先輩ももう勘弁してください。

「おもしろいぞ」

 先輩は素敵な笑みを浮かべて僕を見た。

 また眠れなくなりそうな素敵な笑顔を見ることができた。

 よかったじゃん、と凛が僕の腕をつつくけど、失笑気味の周囲の糸高生の視線が痛い。

 僕らは三人で校門を出て国道に出る踏切を渡った。

 凛と線路の北側に来るのは久しぶりだった。

 買い物ができるところはこちら側の国道沿いに集中していたから中学の時は自転車でよく来ていたけど、高校に入ってから凛とこの踏切を渡るのは初めてだった。