ため池の脇に来たところで凛がマフラーをひらひらさせながら僕の顔をのぞき込んだ。

「昨日、眠れた?」

「気になって眠れなかったよ」

「ホント?」

 うん。

 うなずいた僕の腕を凛がつつく。

「あんな偶然、信じるなよ」

 やっぱり星は偶然なのか。

「そんな話できすぎじゃん」

 そうなのか。

「そうであって欲しいと思ってるわけ?」

 自分ではそんなつもりではなかったけど、よほど顔に出ていたらしい。

「ねえ、朋樹、ホントにそんなにガッカリしたの?」

「うん、まあ、気になったからね」

「あたしの気持ちが? それともマフラーのダサさが?」

「両方かな」

 そっか、と凛がつぶやく。

「ありがと。ちょっとうれしいよ」

「ちょっと?」

「うーん、けっこう、たくさんかな」

 凛が首をかしげて、何かを言いかけてやめた。

「何だよ。また気になるじゃんか」

「あのね」

 うん、なんだよ?

「マフラーはね、偶然」

 ああ、そう。

 それっきり凛は何も言わずに軽い足取りで駆けだした。

 背中に向かって尋ねた。

「じゃあ、もう一つはどうなんだよ」

「しーらない」

 校門をくぐったところで予鈴が鳴り出した。

 昇降口で靴を履き替えながら凛が言った。

「朋樹はどう思う?」

「何が?」

「だから、もう一つの方」

「凛の気持ちを知りたいのは僕の方だよ」

「知りたいんだ?」

 うれしそうに微笑むとまた背を向けていってしまった。

 だからさ、そんなふうにされると気になるだろうよ。