凛が尋ねた。

「先輩は三年何組なんですか」

「三年?」と先輩が瞬きもせずに聞き返す。

「だって、上履きのラインが青じゃないですか」

「ほう、そうなのか。それは知らなかった」

「じゃあ、三年生じゃないんですね。先輩かと思ってたんですけど」

「先輩、後輩なんて意味がないだろう。幽霊に歳なんてないからな」

 それは確かにそうだ。

 でも、雰囲気は年上だから先輩の方が自然な感じがする。

「おまえはなぜそれを首に巻いているのだ?」

 先輩が凛のマフラーを指さした。

「これ、あったかいんですよ」

「あたたかい? それは感覚か」

「まあそうですね。寒いの反対」

「私は感覚がないから分からないな」

 凛は星条旗柄のマフラーを外して先輩の首に巻いた。

「ふむ、これがあたたかいということか」

 先輩はマフラーが気に入ったようだった。

「明日から巻くことにしよう」

「こういう柄はやめた方がいいです」

 僕は忠告した。

 先輩がマフラーを外して凛に返す。

「なぜだ」

「こんな変な柄のマフラー、普通はしませんよ」

「うっせーよ。余計なお世話だって。あたしは気に入ってるんだから」

「どういうセンスだよ」

 先輩は無表情に僕らのやりとりを眺めている。

 僕は無難なマフラーをすすめた。

「無地の白いやつとかが似合いますよ、きっと」

「そうか。ではそうしよう」

 凛が何か言いたそうだったけど、そのときおなかが鳴って笑い出す。

「おなかすいちゃったよね。お昼まだだったし」

 凛が鞄から箱を取り出す。

「先輩、おまんじゅう食べますか」

「おまんじゅう?」

「博多のお土産です。どうぞ」

 なんで箱ごと鞄に入ってるんだよ。

 女子の鞄だからなのか。

 いや、いくらなんでもおかしいだろう。

 普通の女子高生は鞄におまんじゅうの箱なんか入れてないだろ。

「ほら、朋樹も食べなよ」

 蜂蜜と生クリームで洋風にした白あんが絶妙な博多のお土産物を三人で食べた。

 青空にくっきりと輪郭を切り取られた可也山が正面に見える。

 そういえば今日は学校が早かったからまだ夕暮れまで時間がある。

 先輩と少しは長く一緒にいられるわけだ。

「おいしいでしょ」

「これがおいしいということなのか」

 先輩は口を動かしながらつぶやいた。

「幽霊は食事をしたり水を飲んだりする必要がない。そもそも感覚がないから、食べても味が分からない。おいしいまずいも分からない。これがおいしいということなんだな」