学園七不思議なんてどこの学校にでもあるというけど、僕らの糸原中学は田畑と住宅が混在した地域にある平凡な学校で、そんなものはなかった。

 そのかわり、町の七不思議というのはある。

 というより、高志が作った。

 糸原市には農業用のため池が多い。

 大小様々数え切れないくらいある。

 糸原高校の隣も町で一番大きなため池だ。

 もちろん、小学校の頃には近づかないようにと指導されていたけど、友達同士で魚釣りに行ったりするのは当たり前だった。

 そんなときに、高志が決まって、「水でふやけたエロ本を拾おうとして、ため池に落ちて死んだ地縛霊がいる」と話し出すのがお約束だった。

 リアリティもないし、全然怖くもないのでみんなで大笑いしていたものだけど、たまに本当に死体が浮かんでいる事件があって、警察がたくさん来ていることもあった。

 そんなときほど高志は僕の背中を押して池に落とそうとした。

「やめてくれよ」

「ビビるなよ」

 そんな高志も柳ヶ瀬凛の一言に弱い。

「よしなよ、高志。拾ったエロ本のページが全部朋樹の写真になるよ」

「うわ、マジでそれ怖いじゃん」

 今時エロ本なんて拾わなくたって困らないだろうに。

 もう一つは呪いの墓地だ。

 中学校近くの畑の中に古いお墓が並んでいるところがあって、樹木に囲まれているせいかいつも薄暗い。

 バレンタインの時にここでチョコを渡すと両想いになれるけど、チューをすると別れるという噂があって、毎年二月十四日以外は中学生が誰も近寄らない。

 まあ、そもそもお墓が好きな中学生なんているわけないから当たり前だと思うんだけどね。

 僕も高志もバレンタインに女子に呼び出されたことはないし、豆柴のぬいぐるみぐらいしかチューなんかしたことないから、噂の真偽は分からない。

 ……二つだけだな。

 しかも、つまらない。

 高志のせいだ。

 僕らの街なんてこんなもんだ。

 昨日までと同じ今日が明日も続く。

 そんな場所で僕たち三人はずっと一緒だったし、これからも一緒だと思っていた。