高志と別れて、僕は国道沿いに歩いた。

 ガストの隣の不動産屋さんには糸原奈津美の幟旗が立っている。

 僕も飛び込んでみようかと思ったけど、高志と間接キスはいやだったのでやめた。

 一人ガストはやめて、その代わりに若松神社まで行ってみることにした。

 まふゆ先輩がいるかと思ったからだ。

 正面の鳥居から社殿に続く神社の境内はきれいに掃き清められている。

 左脇の空き地にあるブランコにいたのは先輩ではなく凛だった。

 ブランコを揺らすわけでもなく、膝の上に鞄をのせてぼんやりと空を眺めていた。

 高志からあんな話を聞いた後で、声をかけるべきかどうか迷っていたら、凛がこちらを向いた。

「なんだ、朋樹か。何よ、驚かそうとしてたの?」

 目の下を指でそっとぬぐっている。

 僕は凛の話に乗っかったふりをした。

「ああ、ばれちゃったか」

 もちろん、凛だって僕が話しかけるのをためらっていたことはお見通しだろう。

 自分がつらい時ほど、凛は優しくなる。

 凛のそういう優しさを僕は知っている。

 だから、乗っかってやらなきゃ。

「朋樹、忍び寄るのへたくそだよ。驚くわけないじゃん」

「もう少しかなと思ったんだけどな」

 僕は演技が下手だ。

 気持ちも顔に出てしまうんだろう。

 隣に座ると凛が正面を向いたままつぶやいた。

「高志にあたしたちのこと聞いた?」

 なんで分かる?

 ていうか、やっぱりばれてたか。

 僕の顔色を見て凛が微笑む。

「だって、あんた、国道の方から来たじゃん。買い物してきたなら袋でもぶら下げてるでしょ」

 名探偵だな。尾行は下手なくせに。

 切り出し方が分からなかったから単刀直入に言った。

「なあ、高志のこと、許してやってくれないか」

「やだ」

「高志が本気で謝ってたよ。後悔してるって泣いてたよ」

「後悔するならやらなきゃいいじゃん」

 凛はうつむいた。

「それにさ、あたしには謝ってないし」

 謝ったって言ってたけど、凛の心には届いていないようだった。

「こわかったよ」

 そうか。

「あたし、『助けて、朋樹』って祈ってた」

 なんで僕?

「なんかさ、朋樹の顔が思い浮かんで、つい、言っちゃったんだよね。あいつ、ショックだったろうな」

 話が途切れたところで凛がスマホを出した。

 二人で写真を撮って、どこかに送信する。

 僕は何も言わずに凛のするとおりにさせておいた。

 先輩のこと、凛と高志のこと。

 ここのところいろいろなことが急に起きて僕はまったく対応できなくなっていた。

 なんか他にも大事なことがあったような気がする。

 なんだろう?

 ……試験か。

 そっちはどうでもいいや。