教室まで来ると高志が入り口に立って僕らを待っていた。

「なんだよ、今日は遅いな」

「まあね。あたしがちょっと遅れちゃってね」

 高志がつまらなそうに背伸びをする。

「あーあ、今朝は凛様に気合い入れてもらってねえから調子出ねえや」

「やってやらない。ずっと寝てな」

「なんだよ。昨日アーンしてやっただろ」

 凛が高志の膝の裏を蹴った。

「おまえ黙ってろよ」

 カックンと崩れ落ちる高志はうれしそうだ。

「おっす、ありがとよ」

 昨日はパフェの写真送ってきたし、さっきは自分から僕に話したくせに、高志にはばらされたくないのか。

 凛の気持ちはよく分からない。

 凛が自分の席に行ってしまうと、入り口に立ちふさがるようにして高志が僕に小声で言った。

「昨日はサンキューな」

「きのう?」

「気をつかって俺たち二人だけにしてくれたんだろ」

「いや、そういうわけでもないんだけど」

「俺さ、あいつのこと、けっこうマジなんだ」

「あいつ?」

「だからさ」

 高志が口ごもる。

 え? 凛?

「え、好きなの」

「バカ、声でけえよ」

 知らなかったよ。そんなことになっていたなんて。

「いつから?」

「まあずっと前から仲は良かっただろ」

 そりゃそうだけど。

「なんかさ、最近、ちょっといい感じになってきたじゃん、あいつ」

「いい感じって?」

「かわいいとかさ、ちょっと女っぽいとか。いちいち言わせるなよ」

 高志、眼鏡買えよ。

 逆にどんどん男っぽくなってないか。

「おう、みんな席に着け」

 担任の朝倉先生が来て話が終わってしまった。

 高志の気持ちに僕は全然気がつかなかった。

 凛はどう思っているんだろう。

 嫌いってことはないのは確かだから、できるならうまくいってほしいな。

 分からないことがどんどん増えていく。

 そうだ。

 大事なことを忘れていた。

 試験範囲も分からないんだった。