今日の放課後も一斉下校だ。

 凛は高志とガストに勉強しに行くという。

 期末試験はいよいよ明後日からだ。少しはやる気が出たのだろうか。

「高志にパフェおごってもらう」

「俺かよ。なんでだよ」

「あたしの機嫌が悪いからだよ」

 どういう理屈なんだか。

 これは勉強しないやつだな。

 高志は舌打ちしたけど、顔はにやけている。

「朋樹はどうするんだ」

 高志の邪魔をしちゃ悪い。

「僕は帰るよ」

「ふうん、じゃあね。パフェ、パフェ、パフェと」

 凛は僕を引き留めることもなく、ブルドーザーのように高志の背中を押しながら二人で校門を出ていった。

 僕はため池の脇道に入って一人で歩いていた。

 少し先に髪の長い女子生徒がいた。

 昨日と同じ光景だ。僕は追いかけた。

「先輩、一片先輩」

 立ち止まって振り向いてくれたけど、僕の顔を見てもやはり無表情だった。

「先輩、僕です。星朋樹です」

「そうか」とつぶやいて先輩がまた歩き始めた。

 僕も並んで歩いた。

「先輩はこれからどうするんですか」

「分からない」

「試験勉強しないんですか」

「しない」

「余裕ですね。成績大丈夫なんですか。あ、もう卒業できる点数確保してるんですか」

 いくら話しかけても先輩は無表情で、一言だけしか返事はなかった。

 かといって、不愉快とか不機嫌とか、話しかけないでくれといった雰囲気ではなかった。

 線路沿いの道を歩いていると、歩行者専用の狭い踏切のところまで来たときに警報が鳴り出した。

 先輩が立ち止まる。

 線路がカタカタ音を立てるのをじっと見ている。

 西唐津行きの電車がやってくる。

 騒音の中で先輩の口が動いた。

 よく聞き取れない。

 電車が通過して遮断機が上がるのを待って僕は尋ねた。

「今なんて言ったんですか?」

「おまえはあれに乗ったことがあるか?」

 電車?

 そりゃありますよ。

「博多とかに行ったことありますよ」

 先輩はまた「そうか」とつぶやいただけだった。