僕らはブランコに座った。

 遠い昔に、誰かとこうしてブランコを揺らしていたような気がした。

 凛とだったっけ?

 まふゆさんが足をぶらぶら揺らしながらこちらを見た。

「ねえ、先輩」

 ん?

「少しは心の穴、埋まりましたか?」

 どうだろう。

「そういえば、こうして話してると、あんまり気にならなくなるね」

「楽しいからですか?」

「そうだね」

 彼女が頬を膨らませる。

「なんか反応が薄いんですよね」

「ごめんね」

「あ、また『ごめんね』だ」

 そういいながら、まふゆさんは微笑んでいた。

 なんかこういう何気ない会話が懐かしい。

 以前、僕はこんな話を誰かとしていたんだろうか。

 僕らはブランコを漕ぎながら、いろいろな話をした。

 彼女が以前住んでいた街のこと。

 凛や高志のこと。

 高志が考えた糸原の七不思議二つ。

 僕は彼女と自然に会話を楽しむことができた。

 お互いをまだよく知らないからこそ、知りたいこと、教えたいことがたくさんあった。

 新しいことを知るたびに、まふゆさんは微笑んでくれた。

 こんなふうに誰かといろいろな話をしていた時があったような気がした。

 気がつくと日が暮れて暗くなっていた。

「星先輩は凛先輩のこと、好きだったんですか」

「うん、そうだった時もあるのかな。でも、恋愛とは違う気がする」

「そうなんですか」

「あいつには幸せになって欲しいなって思うけど、それは僕とじゃないなって」

「じゃあ、誰のことが好きだったんでしょうね」

「それが、分からないんだ」

 彼女が立ち上がってスカートについたほこりをはたく。

「先輩、そろそろ帰りましょうよ。星が出てきましたよ」

「星ならここにいるよ」

「星先輩」

「何?」

「ダジャレ、下手すぎます。寒いですよ。大ピンチじゃないですか」