この場にとどまっていてもしょうがないので僕が歩き出すと、二人も並んでついてきた。

 歩行者用踏切はまだ先の方なのに、いつもの福岡空港行きの電車が通り過ぎてしまっていた。

「これじゃあ、遅刻だよ」

 僕らは少し足を速めて歩いた。

 後ろから二人の話し声が聞こえる。

「先輩、あたし一片まふゆです。初めまして」

「まふゆちゃん」

「なんですか」

「こいつのこと、好きなの?」

「はい」

 え、何言ってんの?

「好きですよ。いけませんか」

「やめておいたほうがいいんじゃない」

「どうしてですか」

「こいつね、あたしのパンツ見ても黙ってニヤニヤしてるようなエロいやつだから」

 僕は思わず振り向いた。

「何言ってんだよ」

「そうなんですか、先輩?」

 まふゆさんまで本気にしてるよ。

「いや、まあ、そういうことがあったのは事実だけど、別に見たくて見たわけじゃなくて、目に入っただけだよ」

「事実って、ニヤニヤしてたってことがですか」

 ああ、もう面倒くさい。どっちでもいいですよ。

「あとね、こいつ嘘がつけない」と凛が僕を指さす。

「正直っていうことですよね」

 凛が首を振りながら笑う。

「頭悪いからだよ」

「ひどいな」と、いちおう抗議しておく。

「ほめてんじゃん」

「どこが」

「嘘のつけない裏表のない男だって。最高のほめ言葉じゃん」

「最初からそう言えよ。違う言い方だったじゃんか」

「なんかお二人とも仲良すぎじゃないですか」

「ねえ」

 凛がまふゆさんに耳打ちしている。

「ほっぺふくらますとフグみたいでかわいいよ」

「あたし下関から引っ越してきたんですよ。中学の時に、男子からおまえ下関名物だなってさんざんからかわれちゃって」

「それってさ、その男子、まふゆちゃんのこと好きだったんだよ」

「そんなわけないですよ」

「そいつ、フグの形の消しゴム使ってなかった?」

「ああっ。魚市場のお土産物だって言ってた!」

 まふゆさんが絶叫する。

「ほうら」と凛がまふゆさんの頬を人差し指の腹でつつく。

 予鈴が鳴っている。