僕らは三人とも無事二年生になった。

 選択科目が同じなので、クラスも同じだ。

 毎朝僕は食パンマンションの前で凛と待ち合わせて登校し、高志はあいかわらず凛に背中を叩かれて喜んでいる。

 ここまでは変わらない日常だ。

 でも、そんな二人の様子を眺めていると、僕は自分の心にぽっかりと穴が開いていることを意識する。

 この感覚は何なんだろう。

 まるで失恋でもしたかのようだ。

 凛と高志がつきあうようになって、やっぱり寂しいんだろうか。

 正直、そういう気持ちはある。

 あまり凛に話しかけないようにしたり、ちょっとしたことで気を遣うこともある。

 かえって意識しすぎにも思えるんだけど、そんなに僕は凛が好きだったんだろうか。

 だから、気にしすぎてしまうんだろうか。

 それがこの心の穴の正体なのかは分からなかった。

 四月、桜の花も完全に散った頃、僕は一人で学校の廊下を歩いていた。

 一年生の時は三人一緒に教室を移動していたものだけど、最近はわざとトイレに行ったりして、タイミングをずらしたりしている。

 ぼんやりしていたせいか、角で人にぶつかってしまった。

 僕の手からペンケースが落ちた。

「あ、すみません」

 上履きのラインが青の一年生女子だった。

 わざわざしゃがんで消しゴムを拾ってくれる。

「はい、どうぞ」

「あ、ごめん。ありがとう」

 僕も自分でシャーペンや赤ペンを拾い集めた。

 ショートヘアで、やや小柄な感じの女の子だった。

 親切な女の子だなと思ったら、急に変なことを尋ねてきた。

「先輩、どうして消しゴムに私の名前が書いてあるんですか?」

「名前?」

 消しゴムには『真冬』と書いてある。

「私、『まふゆ』っていうんですよ」

 僕はなぜか自分でも信じられないくらい失礼なことを言ってしまった。

「君、幽霊じゃないよね」

「ハア?」

 女の子はあきれた表情で僕を眺めていた。

 ふくらませたほっぺがかわいい。

「幽霊じゃありません。まふゆです」

 残りの筆記用具も拾い集めて渡してくれたけど、口調は怒っていた。

「いくら先輩だからって失礼ですよ。ぶつかったのはすみませんって謝ったし、こうして拾うの手伝ったじゃないですか」

「ごめん、僕も何でそんなこと言っちゃったのか分からないや」

 恥ずかしくて僕はその場から逃げてしまった。

 まふゆ?

 何で消しゴムに知らない人の名前が刻んであるんだろう。

 自分でも分からなかった。