未完成のユメミヅキ


「鈴木さん、鈴木亜弥さん」

 教室の入口で、今日の日直が呼んでいる。

「あれ、わたし」

 亜弥が自分の顔を指さして手を挙げた。まだみんな、クラスメイトの名前を覚えきっていないかもしれないから、彼女なりの親切だ。

「先生が呼んでるよ」

「帰ろうと思った時に呼ばれるなんてついてない」

「待ってるよ」

「もし長くなるようだったら先に帰ってね。メール入れるから」

「うん、行ってらっしゃい」

 制服のスカートを翻し教室を出ていく亜弥を見送って、さて、なにをして待っていようかと思ったその時、なにかを踏んだ。


「あれ」

 3cmくらいの大きさの、布で作られたバスケットボールのキーホルダーが落ちていた。遠くから見ると肉団子に見えることもある。これは、タロちゃんのだ。いつもスポーツバッグに付けている。

「お守り、落としちゃだめじゃん」

 拾い上げて、制服のポケットに入れる。

 届けてあげよう。さっき教室を出て行ったばかりだけれど、部室に寄ってくるだろうから体育館に行けば会える。渡して、ここに帰ってくればいいだろう。自主練の邪魔はしたくないし。

 鞄を持って、教室を出た。
すれ違う生徒を縫うように歩き、まだよく覚えられない校舎の廊下を進む。いちおう『体育館』と案内が出ているから、確認する。

 階段を下って、保健室の前を通り、体育館への外通路を進む。

 入口は開いていた。近付くと、床にバスケットボールが跳ねる音が聞こえてくる。タロちゃんだろうか。もう来ているのかな。


 そっと、入口から中を除く。体育館には、長身の男子生徒がひとりいた。あれは、タロちゃんじゃない。
 ダン、ダン……長い腕にまるで吸い付くように弾むボール。きゅっと上靴が鳴って、ステップを踏む。
練習、しているのかな。ネクタイの色で1年生だと分かる。

 制服姿なのに柔らかく体が動く。

 勢いをつけてヒュッとジャンプ。3ポイントシュート。ボールはバスッと音を立ててゴールネットを揺らす。彼の髪の毛も揺れた。

 空中で、止まっているようだった。

「入った……」

 思わず口からそう漏れた。わたしだったらいまのシュート5点加算だな。そういうルールじゃないって言われるかもしれないけれど。