小谷先生は頭をポコリと撫でてくれた。手が大きいのでわたしの頭はすっぽり収まる。
「小谷先生、男バスに天田和泉くんて、入りましたよね」
「汐丘中の天田か?」
「そうです」
無意識に段ボールを持つ腕に力が入ってしまう。
「ああ……うわさをすれば。ほれ、自分で聞け」
これはもういいからと、段ボールをヒョイと取り上げられた。
「天田。吉川が話あるって」
「へ?」
段ボールで塞がれていた視界が開けると、目の前に和泉くんがいた。
「ああ……どうも」
「いいいい、和泉くん」
「イが多いよ」
「じゃあな、ふたりとも」
小谷先生は、段ボールを肩に軽々と担ぎ上げて、長い足の広い歩幅で行ってしまった。
ちょっと、どうするの。
廊下は、放課後で散らばった生徒達が行き交っていた。
「向こうから、小谷と段ボールが歩いていると思って、見ていたんだ。まふちゃんだったとは」
まふちゃんだったとは。まふちゃんだった。まふちゃん。
繰り返し自動再生される和泉くんの声。ちょっともう1回いいですか。名前を呼んで貰っても。
「うん……ちょっとお手伝いしてた」
「授業の最後に当てられた?」
「あ、そうそう」
「俺も、答えられなくて荷物運ぶのを手伝ったことある」
和泉くんが、頭を掻いてそう言った。そして思わずふたりで吹き出してしまう。
「重いもの持たせられた?」
「ううん。段ボールが大きかっただけ。中身は軽かったの」
「女子にもさせるとか容赦ねーな」
笑いの余韻が残る彼の目はとても優しくて、魅力的で、胸がドキドキする。
「話あるって?」
小谷先生が適当に言ったことではあるけれど、和泉くんと話す機会ができたということで感謝すべきかもしれない。
「あ、あの、和泉くん……」
「なに?」
「昨日の、その、キーホルダーなんだけど……部品が足りなくなっちゃって、明日でもいいかな」
本当は今夜にでも渡したいところだけれど、それは迷惑なのでやめておく。
和泉くんはもみあげのあたりを指で掻きながら「ああ、うん」と言った。
「急がなくてもいいのに」
「だって、鉄は熱いうちに打たないと! 和泉くん、やっぱりいらないって思うと困るし!」
「俺は鉄か。気が変わらないうちにってこと?」
大きな目を細めて和泉くんがくつくつと笑うので、恥ずかしくなってしまった。
「できたら教えて。メッセージ入れてくれれば。はい」
和泉くんが制服のポケットから携帯を出した。
「え?」
「携帯教えて。はい」
いまここに天使が舞い降りた。
いや、なに言ってんだ。しっかりしろ。
わたしは焦りながらスカートのポケットから携帯を取り出して、和泉くんと連絡先を交換した。



